うぃすぱと出会う話
 「……なぁ、お前、アレ、見えてる?」
「……アレ、って、白い…白いの、ですか?」
恐る恐る、といった感じで、背の高い茶髪の方が、低いオレンジっぽい子に声を掛けている。兄弟にしては似てないですけど、どうなんでしょう? いやそんなことよりも、この麗しくってプリチーでセクスィーなわたくしを掴まえて「白いの」呼ばわりとは。
「オッホン! まずは自己紹介させて頂きますね? わたくしは」
「しゃっしゃべった! しゃべ、しゃべりましたよ!!」
「痛ぇよ! まぁ、あぁ、うん、日本語で良かったわ」
「人の話を遮るんじゃねぇ! ンン、わたくしは超有能妖怪執事・ウィスパーと申しまうぃす」
「…は?」
低い方を、高い方がたしなめる。しかしわたくしの深々としたお辞儀に見惚れたのか、ポカンとした表情で二人ともがこちらを見た。いやん、そんな熱視線、わたくし「よー…かい…?!」本当こいつらヒトの思考ぶったぎんの好きな。
「ハイハイ、そうでございますよ~。わたくしが来たからにはもう安心! おはようからおやすみまで、妖怪のアレコレだってパパパのチャチャチャで解決してみせましょ~!」
「いや要らねぇよ」
「あンだとコルァ?!」
っと、いけないいけない。何事も始めが肝心でぃすからね。気を取り直して咳払い、そうそうわたくし、年上でぃすし。
「とりあえず、自己紹介して頂けますぅ? わたくし、あんまり大きい男子なんてちょっとアレなんで、出来ればそちらの少年のが良いなぁなんて思っちゃったりしちゃったり。いやいやベストは幼くってキャワイイお嬢さんか、グラマラス~なお姉サマでも」
「俺ら高校生だから!」
「エ?」
またしてもわたくしの台詞をぶった切って、いやそれよりこのオレンジボーイ、なんつった? 憤慨した様子で、少し頬を赤くしてまなじりを吊り上げて、オレンジボーイは再度、「高校一年の! 日向翔陽です!」と主張するように強く言い放った。……えぇ?!
「ぶッ! まぁちなみに、俺も高校生なんで」
他を当たった方が良いんじゃないですかね、と隠し切れない笑いに肩を震わせながら、大きい方が助言めいたことを言ってくる。そして笑いを堪えるように口元に手を添え…あーーッ!!
「あーた! それ! 妖怪ウォッチ!!」
「は? …なにコレ?!」
「えっちょっとカッケェ」
そうでしょう、そうでしょうとも! やはりオレンジボーイ…改め日向翔陽の方は見る目がある。それに比べて、選ばれてしまった茶髪の方は即行で妖怪ウォッチを外しにかかっている。ダメダメだ。
「無駄でうぃっす~」
「あァ?」
「それは『妖怪ウォッチ』と申しまして、そのウォッチのライトで照らすと、辺りにいる妖怪が見えるようになりまうぃっす」
「は?」
「そしてそして、そのウォッチに友達になった妖怪のメダルを入れると、その友達妖怪を呼び出せるのでぃす!」
このわたくしが懇切丁寧な説明をしてやったというのに、茶髪は目を細めこちらへの不信感を丸出しにして凄んでくる。はーほんと、高校生なんて可愛くないったらありゃしないでぃす。
「良いですか、普通のひとには妖怪なんて見えません。あーたがいま見えてるのは、そのウォッチをつけてるからでぃすよ」
「外したのに」
「所有者登録されたんじゃないでぃすか? そしてそのウォッチがあるからには、以前よりずっと良くも悪くも妖怪に好かれますし、関わることも増えるでしょうねぇ」
「メリットゼロだな! …ん? ちょっと待てよ、じゃあなんでコイツにはお前が見えてんだ?」
「あ。ほんとだ、俺、見えてる!」
茶髪が隣の日向翔陽とわたくしを交互に指差す。ひとを指差しちゃいけませんって習わなかったんでぃすかね、コイツ。まぁでも確かに、その指摘はわたくしにとっても、不思議なところではあるけれど。
「さぁ~? 百円入れたからじゃないでぃすか?」
「は? あ、あぁガチャか! なにそれ百円分の恩恵ってこと? みみっちいっつーか律儀っつーか…いやでも、じゃあ別にコイツがこれを持っていても…」
「だから、おめーが付けてたってことは、おめーが所有者ってことだっつってんだろ」
物分かりの悪い…というよりも、判ることを拒否しているような茶髪に思わず凄んでしまう。ぶすうとふくれた茶髪は、じゃあ聞くけどな、とわたくしを睨み上げてきた。
「その『妖怪ウォッチ』とやらの所有者認定されて、妖怪が見えるようになって、俺にどうしろっていうわけ?」
「そうですねぇ、その辺りは好きなことすれば良いんじゃないでぃすか? 友達妖怪を増やせば、周りで妖怪不祥事案件が起きても解決しやすくなりますから、それはそれで便利でしょうし」
「と、ともだちようかい…」
腕を組んで考えるように教えてやったら、茶髪の方はますます呆れて物も言えない、という顔をする。反して、日向翔陽は案外食いついてきているみたいで、すげぇ、とこぼしていた。あーもーほんと、なーんで日向翔陽が認定されなかったんでしょう。
「ともかく、決定したことは決定したこと! ここでこうしていても仕方ないでぃす。案ずるより産むがやすしとも言いますしね、実際に妖怪を探しに行きますよ!」