二口とひなたとたこパ(未満)の話 |
「あ、おはよ! ちょっと日向くん聞いて!」 「ちわっす! ハイ、なんスか?」 挨拶もそこそこに、珍しく、開口一番から二口さんのテンションが高かった。別にいつもだって低いわけじゃないけれど、今日は目に見えて浮かれている感じがする。なんだろう。なんの用も無くてもおやつを持って店に訪れるのだって、わりと恒例になってきた気がする、よく晴れた火曜日。今日は簡単だけど好評なパンの耳ラスクだ。俺の渡す紙袋を受け取りながら、ハッピーを隠し切れない声、にやりと笑った二口さんがネタばらしをする。 「こないだホットプレート買ったらさぁ、たこ焼き器のプレートついてきた」 「!」 マジか。そういえば欲しいとか言ってたっけ。エッあっ、てかつまり、「じゃあタコパですか!」。 「ですね!」 ハッと思い至って、反射のように尋ねてしまった言葉に、二口さんもまた間髪入れずに頷いてくれた。マジか。マジか! 「やっ…たぁ! いつ! いつにしますか!」 これはテンションが上がる。二口さんの浮かれた感じも納得だ。たこ焼きなんて、店でも冷凍でも簡単に食べられる。でもそれをみんなでワイワイ焼く、このトクベツ感は最高に良い。思わずカウンターに乗り出す勢いだったけども、二口さんは気にしない様子で「そうだなー」。 「日向くんはいつが良い? あ、青根と黄金も呼ぼうぜ」 「良いっすね! 俺、来週の木曜は休みです!」 「んじゃとりあえず、そこが候補な」 二人にも後で訊いてみるわと二口さんは頷いて、俺たちは他にも一応いくつか候補を決めた。日程はまだ少し曖昧だけれど、予定ができるのはワクワクする。「ところでこれ何?」と二口さんが開けた紙袋に「いつものやつです!」と答えながら、俺はもうそわそわと来たるべき日を考えてしまう。 「うーんタコパかー。俺、たぶん焼くの上手いと思うんですよね!」 「お、経験者?」 ちょっとだけつまんじゃお、と言いながらパンの耳ラスクを頬張った二口さんが尋ねてくる。二人に持ってきたやつだけど、俺も一本食べちゃおう。俺が手を伸ばすと紙袋を傾けて開けてくれたので、お礼を言って一本取り出した。うーん、もうちょい砂糖を落とした感じのを作りたいな。 「んぐ、いや、たこ焼き作んのは初めてっす」 「なにソレじゃあ根拠ゼロかよ」 もぐもぐごくんで答えると、二口さんが噴き出した。根拠ゼロってシツレーな! こう見えても俺は見習いとはいえパティシエだし、フツーに料理だってそこそこするし、「いやでも俺、上手そうじゃないすか?!」。 「まぁ確かに、解らんでもないけども!」 心外だと言わんばかりに反論すると、まぁな、と二口さんも笑ってくれた。でしょう、そうでしょう。 「なんつーか、予想通りにめちゃ上手い気はするけど、駄目なら駄目で意味わかんないくらい下手か、どっちかだな」 「そんな不器用じゃないですし!」 もうちょっとフォローしてくれるのかと思ったのに! 笑いながら、良いのか悪いのかよく判らない期待を告げてくる二口さんに、思わず拗ねた顔をする。ごめんて、という軽いノリの謝罪。つーかアレですよ俺がどうのより、 「一番下手なのは黄金な気がするよな?」 「一番下手なのは黄金だと思いません?」 つい言ってしまった言葉、見事にタイミングも内容も被った発言に、俺と二口さんは顔を見合わせて噴き出してしまった。 「だよなぁ! アイツは俺たちを裏切らないと思う!」 「ね! 待ちきれずにぐずぐずの作っちゃいそう!」 揃ってしまうたわいない予想に、頬が緩む。いやいや黄金へのこれは愛だから。悪口じゃないから。ふふ。あぁ、当日がもう待ちきれない! |