サボろうか、って、青い空が僕に囁いた。
サ ボ タ ー
ジ ュ
ギ ョ ウ
学校へゆく道、MDが僕に叫ぶ。何時もより一本遅い電車、けれど変わる事の無い風景。
煩い人間も、何も彼もが続いてゆく。下らなさに嘲笑しながら、僕は僕も笑っていた。
地下鉄から出た空は青く、
他人も街も知らないふりして、追いかけてこいと歌われた気がした、のに。
「あ」
充電が切れそうなのは知っていた。
三つ塊が表示される内、家を出る時に既に、一つ残っていただけだった。
一時間近くの通学、回しっ放しにしていて、危険じゃないわけが無い。
最後に好きな曲ひとつ回した後に、プツリと切断の音がした。ああ、サヨナラMDプレイヤー。
そして途端にぐんと迫る世界。無駄に高い、下らないオナゴの声。
大通り行き交う鉄に、轢かれてしまえ事故ってしまえと呪いを込めて、僕は学校へ向かった。
何も、何も、何も、何も要らない。
「起立、れーーーい」
「御願いしまーーーす」
一限目は、地学だった筈なのに。
地学の教師が好きで、取り敢えず其れだけ出て、サボろうかと思っていたのに。
権力による時間割変更、どうしようもなくて僕は屈した。
チクショウ、好まないセンセイの日本史。しかも楽しくもない近代、現代辺りの。
「其れはーーー、つまりーーー、こういう事だったんですねーーー。時の天皇がーーー・・・」
わず、らわ、しい。
まるでバスガイドのような話し方の女。教師は私は、偉いと言わんばかりの女。
悦に入ったんですか。前後に揺れるように、ゴコウジュ。
ああ眠さはピーク、どうしようもない。やる事なんて無い、元より、やる気なんて、無い。
何の気無しに制服のポケットに手を突っ込んだ。
最も後ろの座席位置、
椅子を思い切り引いて幅を取っている御蔭で、邪魔するものは何も無い。
そして此の手に当たったのは、
一枚残っているガムとチュッパ、切れたMDプレイヤーと・・・ああ、新品の電池。
そういえば昨日、切れそうな事を見越して電池を買ったんだっけ。
結局切れるのは今日に持ち越しで、すっかり忘れていた。
『カシャン』堂々MDを取り出して、僕は電池を入れ替える。
「お」
ジジ・・・と読み込みの音がして、そして彼は、息を吹き返した。
やりぃ、呟いてイヤホンを耳に。右まで挿して――――――声。
「ちょっと、何してるんですか」
「・・・・・・」
センセイの眼が、此方を向いていた。ざわりと揺れるクラス、良い子な空気を混ぜて、溜息。
さて、どうしたもんかな。
「・・・・・・」
「答えられないんですか。やる気が無いなら、出ていきなさい」
わお。僕は、ごくごく小さく呟いた。
尤も、静まり返ったクラスには、其れも刺激だったようだけれど。
特に眼を逸らす事も無く、ぼんやり前を向いていると、
してやったり、どうかと言わんばかりのセンセイの表情。
怒る教師に、しゅんとなる生徒? シナリオ通りに、反吐が出そうだ。
右耳だけのMDからは、少し痛いがばっちり曲が流れてきていた。
そうだよね、僕は少しだけ笑って、左耳を入れた。
「ちょっとアナタ何をし」
「―――音楽を、聴こうとしていましたよ」
先程の質問に一先ず答えて、僕は緩慢な動作で席を立つ。
出し入れなんかしなかった、登校して置いた侭の鞄を再び手に取る。
クラスは相変わらず揺れていて、教壇では鳩が豆鉄砲をくらっていた。
MDは囁く、僕の背を、押す。
「じゃ、出ますんで」
肩に鞄、耳にMD、序でにチュッパでも食べようかな。久々に見つけた、少しだけ甘ったるいミルク味。
絶句して、ざわりともしなくなったクラスを、僕はすり抜ける。
あぁそういえば、今帰ると地学は出られねぇ。まぁ良いか、仕方無いよね不可抗力だよ。
適当な台詞を脳内で生成しながら、僕は、世界を追いかけた。
教室は遠い、靴を履き替える、下駄箱を出る。BGMは順調オゥルオッケイ。
沸いた風、一人、独り、僕は世界に、独りだけ。何だか今なら、笑っちゃったり出来るんだけど。
さあどーよ青い空、僕は何処へもゆけるよ。
世界は、僕だけのものになる。