10 counts , 03   ―――Time






 「うわ、でか・・・。流石に一人じゃ無理じゃない、これ・・・?」
「そんな事ないと思う。あたし、甘いもの好きだし」
そういうレベルじゃないだろ・・・、と、心の中で突っ込みを入れたくなる。
そんな、彼女の行動。
目の前には小振りの金魚鉢に入ったパフェ。
小振りと言っても金魚鉢に入っているのだ。二千円もするし。
そんなパフェを、一人で食べられる、と彼女は言う。
僕は元々甘いものを好き好んで食べる方じゃないから、
余計そう思うのかもしれないけれど・・・無謀、だ。
「まぁ、食べられるって言うなら、其れで良いけれど」
「大丈夫。任せといてよ」
にっこりと笑って意気揚々と食べ始める姿に、
可愛いなぁ、なんて思う僕は、彼女を止められないだろう。
仕方なく、パフェの存在はなるべく視界に入れないようにして、
僕は自分の目の前に在る紅茶からレモンを取り除いた。
ミルクティーにしたかったのにな、と少し残念に感じるけれど、
紅茶自体は好きだから気にしないでおこう。
 「・・・其れで、今日はどうしたの」
「うん? あぁ、あのね・・・」
苺を丸ごと口に入れた彼女は、ちょっと待って、と咀嚼して、
其れから僕にもう一度、あのねと切り出す。
其れだけ手間をかけて話し始めた割りに
「何となくよ」
・・・・・・・・・・・・一言、ですか。
「あぁ、そう」
「うんそう」
そうすると、朝は七時に入った彼女の電話で起こされて、
其処で着替えてデートだと唐突に言われ、行き先もやる事も何も告げられず、
とにかく集合させられて、そういった一連の僕の意思を無視した流れも、何となく、だ。
何となく。何となく・・・、何となく。
・・・僕はちょっとくらいなら彼女を殴る権利が在るのではないだろうか。
 「まぁ、良いんだけれど、ね」
「そうよ裕介、細かい事なんか気にしちゃいけないわ」
「・・・細かい事ね。まぁね。そうだね。細かいね」
「そう。其れにしても此処の店、凄く美味しい。クリームとか最高だわ」
「良かったね」
どうして彼女はこんなにマイペースなのだろうかと考えなくも無いけれど、
ぼんやり見つめていると結局可愛いなぁと考えてしまって進まないので、止める。
もう本当に、僕は駄目だ。
 「明くんも来れば良かったのにねーーー。美味しーーーい」
「明は今、はりきりアルバイターだからね。
誘ったけど、『今は金を稼ぐ時期なんだよスケ』ってさ」
「あはは。明くんらしいなーーー。じゃあ此の間のゲーセン荒らしが最後?」
「ゲーセン荒らしって・・・ゲーセン巡りと言いなさい、巡りと」
窘めるように言えば、口の中をもぐもぐとさせながら、えへへと笑う。
「だって裕介も明くんも、やたら強かったじゃん。
中学の頃は噂の中坊だったんでしょ?」
「一部だけだよ、そんなの。
明は自慢出来るかもしれないけど、僕はパズルしか勝てないし」
「パズル勝てれば充分でしょーーー!
此の前も対戦申し込んできた人、全員に勝ってたじゃん」
「まぁそうだけど・・・」
歯切れ悪く返事をする僕に「認めちゃいなさい」、ぴっとフォークを向ける。
マナーとしてどうなの其れ、と呟けば、ちょっとくらい良いの、なんて笑う。
「あーーー、明くんにも会っておきたかったなーーー。
思い出話も在るし、裕介にゲーセン荒らし認めさせられるし!」
「・・・そうだね、会いたかったね」

 流れる時間が嗚呼、こんなにも愛しい。