10 counts , 06   ―――Thursday






 今日は朝から、天気が良い。
そうでなくても僕は、木曜日は何時も、ワクワクする。

 両親は共働きで何時も家に居なかったが、木曜日だけは両親の仕事が休みだったのだ。
今では年数を重ねた分、時間の融通が利くのだろう、不定期に休みを取っているけれど。
でも小さい頃はとにかく木曜日だけで、其の木曜日が、やたら嬉しかったのを覚えている。
父さんが部屋に僕を起こしに来て、朝食を三人で食べる。
其の日だけは、遅めに学校に行ってたんだっけ。

 ・・・僕は、そんな子供の頃の記憶を引き摺っているのか。
其処まで考えて僕は、苦笑するように顔を崩して、頭を左右に振った。
それから、ふと思い立って窓を開け放す、極弱い風が入る。
夏も終わりに近付いたせいか、時刻はもう午後といえる時間だったけれど、暑くはない。
気持ちの良い、木曜日の午後。ベッドに仰向けダイブ、煩わされるものは何も無い。
ぼんやりと、本当にぼんやりと。

 あぁ、そういえば。
彼女と初めて会話したのも、あれは確か、木曜日だった気がする。
昼近くになって混雑してきたカフェスペースで、僕は明とサンドウィッチを広げていた。
途中で明が「足りねぇ」なんて言って、人込みに消えて、入れ違うように彼女が現れたんだ。
そうして僕らの三人掛けのテーブルの前に立って、
「あの、此処使っても良いですか?」
言葉だけは丁寧に、でも何だか有無を言わさない言い方で、言ったんだ。
 僕はてっきり余っている椅子を持っていくのだと思って、「あ、あぁどうぞ」。
其の答えに彼女は笑って「ありがとう」、そして、ストン。
「え、座っ・・・」
「ん?」
「や・・・」
 それから何食わぬ顔をして彼女が食べ始めた頃、パンを抱えて明が戻ってきた。
一通り僕をからかった後に、親しげに彼女に話し始めて、あぁ、そうだ。
そうやって木曜日、僕達の交流は始まったんだ。

 何気無い日々を、そんな事が思い出せる日々を。