10 counts , 07 ―――A Coffee
「今日は、また何で来る気になったの?」
「うん、あのね・・・」
昨日の電話通りに、彼女は午後から僕の家へやってきた。
今日も今日とて律儀に「御邪魔します」と断って、彼女は僕の部屋へと入る。
麦茶を出そうかとも思ったけれど、
彼女がカルピスを持参して来たので、僕はコップだけ用意して有り難く貰った。
そうして、一息ついて、今に至るのだ。
彼女は僕の問いに、がさごそと鞄を探り出した。
何を入れるものが在るのだろうかと不思議に思うくらい大きめの鞄から、
彼女はビニール製の袋を取り出した。
「はい、これ」
「何?」
ずいっと僕の目の前に差し出すので、思わず訊き返す。
そうすると、彼女は「御土産」と短く言って笑った。
「御土産?」
「うん」
「何の」
「昨日行ったでしょ、収録」
「あぁ」
「開けて良い?」
「どぞ」
簡単な会話を重ねて、僕は袋から中身を取り出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何?」
嗚呼、本当に。
四角い、温泉街の土産としてよく在りそうな饅頭のパッケージに似た包みに躍る文字に、僕は。
「・・・ゼリー饅頭・・・!」
正しくは、ゼリィマンジュー。
しかしどう足掻いてみたって、美味しそうだとは到底思えない。
「・・・何でこんなもの買ったの?」
「番組の名物だよ」
・・・・・・ああ、彼女は一体どんな番組を見ているというのか。
「名物、ですか。・・・食べなきゃ駄目?」
「名物、です。食べなきゃ駄目」
にっこりと、本当ににっこりと、満面の笑みで彼女は言う。
けれども僕に、「うん!」なんて同じように頷いて食べる勇気なんて、無い。
「取り敢えず、コーヒーでも淹れてくるから」
「本当? 裕介んちのコーヒー、美味しいんだよねー」
「まぁ母さんが凝ってるからね」
そうして話をはぐらかして、僕はキッチンへコーヒーを淹れにいく。
戻ってきたら、あんな饅頭無かった、なんて事に――――――
―――なりは、しなかったようだ。
「ありがとう裕介。さ、御茶請けに食べて!」
「・・・・・・御茶請け、ね・・・」
コーヒーを右手に、無理やり持たされたゼリィマンジューを左手に。
僕は暫し固まってしまうのだけれど・・・、結局は、食べる事に、なる。
だって仕方無い。惚れた弱み、なんて、昔の人は巧く言い回したものだね。
「・・・・・・イタ、ダキ・・・マス」
意を決して、見た目は比較的良い饅頭を、
饅頭饅頭饅頭、なんて思いながら、口に放り込む。
噛む勇気も出なくて、だけど
「ど?」
そうも言ってられなくて。
「・・・・・・ん、ッ!!」
・・・前略、御母様。
貴女の息子は、コーヒーの美味が解る大人になりました。