10 counts , 09 ―――A Mail
彼女は今日、
何とかという最近人気のトークバラエティ番組の収録を見に行く、と言っていた。
やっぱりペアで当たった観覧券は、初め、僕に回る予定だったらしい。
けれど僕は番組を見た事が無く、
「友達で、好きな子は居ないの?」と訊ねたら、僕以外に決まったみたいだった。
というわけで僕は、彼女が居ない一日を過ごす。
と言ってみても、其れは別にいつだってそうなのだ。
ベタベタと毎日会っているわけではなく、週に二度ほど会う程度。
僕らには、これくらいでちょうど良い、と
僕は思っているけれど・・・彼女は、そういえば、どうなんだろう。
訊いた事が無い。いや、訊きにくいけれど。
『ヴ・・・ヴヴ・・・』
「あ」
机の上に置いた、携帯電話のディスプレイが明るくなった。
『新着メールを受信しました』。
誰だろうと開いてみれば、よく見知った彼女の名前。
「どうしたんだろ」
今頃、番組収録の真っ最中じゃないのかな。
僕は少し疑問を抱きながら、慣れた作業でメールを開く。
「っはは!」
思わず、笑ってしまった。
受信された文字は、『良い!』の三文字だけ
。如何にも楽しんでいる、という雰囲気が伝わってくる。
多分、収録の休憩中なのだろう。
返信しようかとも思ったけれど、どうせ彼女は見ないに違いない。
其処まで考えて、僕は携帯電話を閉じる。
「・・・・・・楽しんで、るんだな」
不意に頭を掠めた台詞が、実際に、音を伴って漏れた。
何となく、何となくだけど、番組収録とかは抜きにして、彼女が幸せそうな気がした。
短いメールといい、行くまでのワクワクした感じといい、多分本当に楽しんでいるのだろうと思う。
だったら、僕は嬉しい。
確かに僕の中、一昨日の言葉は何度も脳の中で繰り返される。
だけど、未だ後八日間在るんだから。八日間。八日間。
僕は納得させるように唱える。
本当に、迫っている? 現実は、程遠い。