10 counts , 10   ―――Lover Days






 「ごめん、待ったよね?!」
「あ、ううん。大丈夫」
待ち合わせの時間、ぴったりに彼女は来た。僕は、幼い頃からの癖で五分前行動。
謝る彼女に平気だよ、と言って軽く首を振る。それから、「じゃ、行こっか」と促した。
 「はい、チケット」
「ありがとう」
単館上映の此の映画は、前から彼女が見たかったものらしい。
招待券プレゼントに応募して当たった時は、物凄く喜んでいた。
ペアの片方を僕が貰って、中へと入る。
 上映前だけれど、映画館特有の薄暗さが在って、
小さな所の割に巨大な白のスクリーンが浮き立っていた。
人は少ない。時間が早いからか、・・・人気が無いのか。
「真ん中にしようよ」
「うん」
彼女が嬉々として歩いてゆくのに従って、僕らは客席のちょうど中央辺りに座った。
始まる前にトイレに行く、という彼女を見送って、僕は一人になる。
 ・・・違和感の無さが、違和感だ。
いつもの映画鑑賞と何ら変わりは無い。
多分、彼女はポップコーンかジュースを片手に戻ってくるのだろう。普段通り。
そして僕自身も、何の変化も無く過ごしていた。
十日はとても長い気がして、全く実感が無い。
「死」なんていうものは、余りにも僕の日常から切り離されたもので
 「ただいま。裕介も要る?」
「あ、おかえり。僕は良いよ。そういうの、余りしないんだ」
甘い香りがした。恐らくキャラメルポップコーンを手にしているのだろう。
きちんといつも訊いてくれる彼女に心中で感謝する。
思いやり、というものが彼女には在るのだ。
 それから、ひとしきり話をした。
此の映画の概要や、何故見たいと思ったのかなど、
大抵は彼女がしてくるものを聴いていた。
そこで僕が得た知識は、ごく簡単なものだったけれど、観賞前には充分なものだった。
オムニバス形式の、短編を五つ集めた映画、小説が原作。
主題歌を歌うバンドも彼女の好きなバンドらしくて、とても楽しみだいうこと。
「でね、明くんは三つめが面白いって言ってたんだけど・・・」
「じゃあ四つめが面白いかもね。明はいつも、一歩先行くヤツだから」
「あはは、そうかも!でも五つとも楽しみだな」
「そうだね、面白いと良いね」
其処まで話して、証明が落ちた。「あ」と二人で声を上げる。
彼女が正にワクワク、といった表情、声で「始まる」と呟いた。
 ぼんやりしたヒカリが、スクリーンに色を映し出す。

 何て、日常じみた光景なんだろう。