全てが、恐ろしく無生産だ。
もし神が居るというのなら問おう。僕を、生かす価値はあるのか。
―――――― S o , n o I p r o d u c e a n y t h i n g .
ぼんやりと、外を見つめていた、わけでもなかった。
ぼんやりはぼんやりだが、何処か空間の一点を見つめていた。映る景色は、移ろうだけ。
そうして何時間過ごしただろうか、意識を掴んだ時、古文が始まっていた。授業。
机の上に置いてあっただけのルーズリーフを退けて、時間割を探す。
一時間目化学。・・・時間割変更、あったかな。・・・あぁ、三時間目が古文だ。
記憶の最後は朝のST。六十五分授業の此の学校、二時間半くらいは、ぼんやりしていたらしい。
教師の声が、頭上を流れる。何をしているんだろう、自分は。
緑の黒板、白で埋まってゆく。黄色のラインが引かれる。教師の口が上下する。
カツカツと、全方向から記入音。そして、僕。
まるで硝子越しの世界。キャメラのファインダー越し、世界を眺めている。
此処に色は無い。向こうに手は届かない。有彩色を目に映して、そして無彩色を知る。
「では、羽賀くん。『あさまし』の意味は?」
「『驚き呆れる』」
「そう。だから此処は―――・・・」
教師の声。生徒の声。何の関係性が在るのだ。何の意味が在るのだ。
僕に、其処から何を見い出せと言うのだ。
「じゃあ次、工藤くん、読んで」
「はい」
個を識別する記号『工藤』。
それから立つ音。視線がずれる。視界高く。僕が、立つ。そうか僕が、指名されて読むのだ。
身体はヨイコに反応、けれど心は此処に無い。違う、もっとずっと前、とうの昔に、そんなもの無くした。
僕の声が響く。教室に、僕に。・・・・・・・・・・・・本当に、僕の、声?
繰り返す下らない言葉。帝は大層御怒りになってらっしゃって。そうですか。
里で高熱が下がらないので加持祈祷をさせ、皇子が御生まれになりました。おめでとうございます。
どうでも良い。どうだって良い。何も、嗚呼何も入ってこない。
僕は、生きて、いますか?
持ちなれた濃紺のペンケース、確か結構安く買った、百九十円のカッターを弄ぶ。
僕の声は消えてゆく。知らない物語の中に消えてゆく。女房が炭櫃を持って何処かへ行った。
そしてまた視界が落ちる。何て便利な身体、有能な秘書が座らせてくれるんだ。
何時から、こんななの。
もうずっと、ずっと前から。
キチキチキチ・・・。プラスチックの擦れ合う音がして、鈍色の刃が顔を見せる。
一番先は少し欠けていて、けれど何故かは思い出せない。
良いの先端なんて使わないから。ゆっくりと、引くだけ。
つぅと細い線が引かれて、うっすらと近辺が紅になる。肌は白くない、勿体無い、赤。
そして見つめる、僕。
「・・・・・・・・・・・・ああ、まだ、生きてるんだーーー・・・・・・」
そして今また、授業終了のチャイムが鳴った。