「愛してるよ」
歯の浮くような台詞は、欲しくない。

 「ずっと好きだよ」
不確かな約束なんて、欲しくない。


 だって、ねぇ。
必要以上の繋がりなんて、ちょっと面倒だと思わない――――――?






スタバ屋外ティブルにて。






 取り敢えず今は、僕を見て君が笑ってくれているから、だから、僕は此処に立ち止まっている。
 けれど僕は、君がいなくなったって結局はきっと代わりを見つけられるだろうし、
多分困ったりなんてしないだろう。
もし寂しかったら寂しいなりに、他の事にだって他の人にだって入れ込めるだろう。
君しかいないなんて、君は傷付くかも知れないけれど、僕は思えない。

 「ね、愛してるよ」
「ありがとう」
「・・・愛してよ?」
「今んとこね」
「・・・冷たい」
「僕、平熱低いから」
我ながら淡白だと思う。
物事には、さして固執しない。他人にも、深入りしない。
眼を見てなんて話さない。見せない手札は多い方が良い。
私生活なんざ、他人にばらす必要性は無いだろ。
我ながら、淡白だと思う。
 「あたしのこと好き?」
「そうだね、比較的」
「比較的って・・・何と比較するのよ」
「何と? そうだね・・・あぁ、あの人?」
「は?」
「ほら、スーツ着てるでしょ。黒スーツ黒ネクタイの、携帯弄ってるあの人」
「・・・・・・は?」
我ながら、淡白どころじゃないかもしれない。此処まで来ると、いっそ笑えてくる。
僕の目の前に居る彼女は、一瞬 訳が判らないと言う顔をして、それから、一気に目尻を上げた。

 「ちょっと好い加減にしてよ、リョウスケ!!」

 「こんな場所で大声出すのは恥ずかしいと思うよ」

 買い物に行きたいと、そして一緒に行こうと誘うから、僕は付き合う事にした。
一応は世間的に見て『彼氏』という立場に置かれているらしいし、
暇を持て余していたので丁度良かったんだ。
先程出されて冷め切ったホットコーヒー、因みにブレンドコーヒー、を一口啜る。
牛乳も砂糖も入れていないので、冷める程に苦味が増して美味しい・・・というのは、僕の自論。
 「リョウスケっていつもそう! アタシのことなんてどうでも良いんじゃない?! サイアク!!」
声が降る。僕はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲みながら、彼女の怒りが治まるのを待つ。
けれど、彼女は治まりそうにはない。あまつさえ。

 「アタシのこと好きって言ってくれたのは嘘だったの?!」

 妄想か空想か、僕の言った事なんて無い言葉を盾に問い詰めてきた。
最も、寝惚けて彼女が言った言葉を、繰り返したりしてしまったのかもしれないけれど。
「言ったっけ?」
「〜〜〜もう良い! リョウスケなんか大っ嫌い!!」
そうして彼女は、ガタンッと思い切り、机を地面に押し付けながら勢い良く立って。
僕はコーヒーを溢すわけにはいかないし、咄嗟にカップとソーサーを机から取り上げる。
その行動は、彼女の逆鱗に、触れた御様子で。
 「っもう、あったまきた!! リョウスケなんか知らない、もう知らない、帰る!!」
「・・・・・・あぁ、そう。じゃあね」
「―――え?」
「ん?」
彼女の動きが止まったのを、視界の端で確認した。
どういうつもりで言ったのか、やっぱり勢いだったんだろうね、酷く驚いた顔をして、僕を見つめてる。
「行くなら行けば良いでしょう。僕は引き止めはしないし」
そうして僕はまた、コーヒーを一口。
今度飲むならブレンドじゃないものにしてみよう。あぁ、パウンドケーキをつけてみようかな。
 「ちょ、ちょっと・・・リョウスケ、アタシ別れるって言ってるのよ?!」
「うん、だから別に構わないって言ってるでしょう。これからの約束だって無いし、もう良いと思うけど」
「もう良いって・・・ちょ、リョウスケ・・・本気で言ってるの?!」
煩い。立ったまま唖然として、僕に疑問をぶつけ始める。注目を集めるし、こっぱずかしい。
 ・・・・・・あ。
「仕方ないな。じゃあ僕が行くよ」
「え、ちょっ・・・と、リョウスケ?! や、やだっ・・・本当に本気?!」
「君が言ったんでしょう。丁度良いよ、コーヒーも飲み終わったしね」
「コっ・・・・・・」
「それじゃあね」
そして、僕は席を立つ。
これ以上、注目を集めたくはないし。今後、此の関係を軌道修正するのも面倒だし。

 「ちょ、ちょっ・・・ヤダ、ヤダ、リョウスケ!!」

 「じゃあね、リカ」


 後に残ったのは空のコーヒーカップと、唖然呆然とした少女。
 それから僕の中に、清々しいコーヒーの味。



 嗚呼、今日も天気が良いらしい――――――。