見知らぬ青年が吸い込み、そして吐き出した煙草の煙が、僕の身体に染みた。
其れで銘柄が識別出来る程、僕は詳しいスモーカーではないけれど、
在る程度、重いのか軽いのかを判別するくらいは出来ると思う。
尤も思っているだけで、結果が正しいとは言い切れない所は在る飽くまで、予測の域だ。
追い越していった青年が纏っていた香は酷くなく、他人が顔を顰める程ではない。
僕が溜息を吐いたり、舌打をしたりする方が余程、嫌な顔をされる。煩わしいくらい過敏だ。
そう大体、人は僕を愛さないのに、僕は人を愛せって。
嗚呼僕は詐欺師で在っても偽善者ではない、面倒臭い、あ、信号が赤に変わった。
まるで僕の思考を止めるようだ。溜まる人込の中に、先程の彼を見つけた。
如何にも昨今の青年という雰囲気、軽く撥ねた茶髪に、ジャケット、Tシャツ、細身のボトム。
それから革っぽい靴に、若干安っぽいようなシルバーアクセサリー。
ああけれど、彼はすいと人から外れて、少しだけ視線を動かして、ふう・・・。
確認するように何も無い空間に、煙草の煙を吐き出した。
 「80点」
彼は屹度、一応、人を避ける気は在ったのだろう。簡単な視察程度にしろ、周囲を見極めた。
ただ残念だ青年、君は今、風上に立っている。
そもそも、此のような人口密集地帯に於ける喫煙は、遠慮すべきだと思いますよ。
あ、青になる。
伴うように僕の思考は再開する。喫煙者に問題意識が広まると良い、
というか意識の低い者は喫煙すべきではないだろう。
そうなのだ根本的に、喫煙にせよ何にせよ、
最低限の常識や良識、配慮の上に立つべきで―――・・・嗚呼。
彼は携帯灰皿で煙草を消してパチン、地下へ続く階段を降りてゆく。
僕も続く、雑音がフェードアウト、轟音にフェードイン。
未だあと一時間程度か、家に帰るまでが学校、なんてね。
うんざりする、うんざりする、ああ、いつもか。
こんな事、いつもか。






セ ル フ サ ー ビ ス モ ラ リ テ ィ