10 counts , 02   ―――A Calling






 彼女が、家出したという。

 突然自宅に電話が在って、家に一人の僕は、仕方無いながら当然電話に出た。
飛び込んできたのは焦って上擦り気味の、女性の声。
「あのっ・・・」
其れは彼女の母親で、其の口から漏れる事実を僕は、知っていた。
簡潔に話された――――――彼女の家出、と、いう事実。
「其れで、心当たりとか無いかと思って・・・!」
息の詰まるような言葉。非現実的な現実。
僕は何も出来ずに「心当たりは、ちょっと・・・」と答えた。
彼女の行動は大抵、予測出来ない。
「そう…。あの子、携帯は持っていってるみたいなの。
私じゃ連絡取れないけど・・・」
僕なら、出来る、と? 可能性は五分五分だ。
自分の消極的な考えに苦笑しながら、
「判りました。取り敢えず連絡してみます」
僕はそうして、電話を切った。
とうとう、きた。無意識の溜息。彼女の言葉が、脳内に蘇る。
『あたし、十日後に――――――

 「もしもし?」
少し意外な事に、二度のコールで繋がった。
間の抜けた、普段と変わらない僕の声。彼女の、声。
「あ、祐介」
「あぁ、うん」
あっけらかんとした言い方、僕は勢いに呑まれて返事をする。
其の体たらくに気付いて「いや、いやそうじゃなくてね」と切り出すと、
あの時と同じ「止めて、そういうの。好きだけどね、面白くて」。
嫌だ。嫌だ嫌だいやに、記憶が鮮明だ。
 次の句を継げない僕に、彼女はけらけらと笑って
「家出ってさ、やってみたかったのーーー」
僕は、殆ど、泣きそうだった。
「心配してるよ」
「其れは、知ってる」
「僕の家にも、電話が在ったよ」
「祐介の自宅電話の番号、メモして置いてきたもん」
「・・・何で」
「話したかったの」
「そっか」
・・・僕は彼女のそんな一言で全部納得してしまうくらいは、彼女が好きらしい。
 もう何も訊く気になれなくて黙るしかなくなってしまった。
彼女が雰囲気を察知してか、小さく噴き出した。
「じゃあ切るよ?」
「あっ…うん」
引き留める理由も術も無くて、電話越し、僕は頷いた。
そんな僕に、
彼女がいつもみたいに少しだけ口の端を上げて笑うのが、見える気がした。
「ばいばい、さよなら、祐介」
「うんじゃあね、またね」

 ばいばいさよなら、其の次は――――――。