10 counts , 05   ―――The Album






 「はいこれ」
「ありがとう」
そう言って明から手渡されたのは一枚のCD。所謂、アルバム。
「珍しいな、スケが聴きたがるなんて」
「まぁ偶にはね」
貸してもらったアルバムは、数年前に結成された、
どちらかと言うとロック系になるバンドの、セカンドアルバム。
僕は普段から洋楽を聴く事が多いので、邦楽のアルバムを明から借りるのは初めてだ。
「ま、スケが興味持ってくれて嬉しいよ。
前までは『悪いから良いよ』なんて気の無い返事だったのに」
「あはは。でも悪いと思うのは本当だよ。
何か、他人の物を借りるのって申し訳無い気がするもん」
「何だよ、其れーーー。俺とスケの仲だろォ?
御前の彼女も普通に借りていきますよ?」
わざとらしく『御前の彼女』なんて言って、僕を茶化す。
僕は其れに笑って、心中、「知ってる」と呟いた。
・・・知ってる。だから借りたんだ。
 「まぁ良いや。俺、もう直ぐバイトだから行くわ」
「あ、バイト? 御免ね、わざわざ来てもらっちゃって」
「良いって、良いって。俺とスケの仲だろォ?」
「二回目だよ、明・・・」
「スケ好きだぜーーー。じゃあな、ちゃんと聴き込めよ」
そう言って、明は玄関の扉を閉めようとする。
僕はありがとう、ともう一度言いながら見送った。
笑って手を振って、そうして「バタン」。ふと時計を見れば、午後六時少し過ぎ。
これからバイトだなんて大変だな、と思いながら、部屋に戻る。

 ぽす、と軽い音がして、CDがベッドに着地。
其の隣、ぼす、と重い音がして、僕がベッドに着地。
はふぅ・・・と、細く長く息を吐き出す。
此のアルバム、は、僕にとって、結構な意味を持つ。
さっき明も言っていたけれど、彼女も、此のバンドが好きだ。
此の前、明に借りた後に結局思わず買ってしまった、と言っていた。
其の時に、僕も、勧められた。並べられた宣伝文句はこうだ。

 『あたしの事をうたってくれている気がするの』

 こんな言葉、余程じゃないと出てくるわけが無い。
其の時は「へぇ、そうなの」と御座なりな言葉を言っただけだったけれど、今は、違う。
今は、今は・・・・・・。
 どさり、僕はアルバムを踏まないようにしながら、背を倒しベッドにダイヴした。

 君が詰め込んだアルバム、僕は開けない侭。