10 counts , 08   ―――The Room






 「今日も愛してるよー、スケーーー★」
「はいはい。いらっしゃい、明」
いつもの軽い口調と明るい雰囲気を纏いながら、玄関先に明が姿を現した。
「おっじゃましやーーーす」なんて言う彼を、取り敢えず自分の部屋に通す。
 「はい、どうぞ」
「サンキュ。本当、スケって良妻になれると思うよ、俺」
「これくらい普通でしょ」
こんな会話も、やっぱりいつもの事。
最初の頃こそ真っ赤になってたけど、今じゃすっかり慣れきった。
彼は笑いながら、僕が出した麦茶を一口含む。
僕も其の隣に座って、同じように麦茶を手に取った。
「あーーー冷たくて美味しーーー」
「今日はどうしたの。突然、来たいって」
「あぁ、これ返そうと思ってさ。サンキュな」
「ん? あ、あぁ! クリアしたんだーーー」
「おうよ」
そうして彼は、袋をずいと差し出す。
僕が以前に貸したゲームが入っている筈だ。
 「面白かった?」
おずおずと僕は訊ねる。
彼は楽しんでくれるだろうと思って貸したけれど、これは好き嫌いが分かれるゲームだと思う。
僕の不安げな表情でも見て取ったのか、彼はぽんと肩を叩いて、「だーいじょぶ」。
「すっげぇ面白かった」
「ほんと?」
「おう。最初は『京子ちゃんの日記』なんて、どんなギャルゲー貸しやがったのかと思ったけどさ。
やってくと怖いのなんのって・・・!!」
「でしょーーー?!」
彼の言葉に、僕はどんどん嬉しくなる。
貸したゲームは、ちょっと狂気じみたサイコミステリーゲームだったのだ。
主人公はネットを絡めて次々と起きる殺人事件を追うのだけれど、
最終的に狂ったもう一人の自分が犯人という結末が訪れる、というかなり切実な恐怖を伴うゲーム。
「あのラストは凄いよなー!
刺殺とか投身とか、どう足掻いても死んで、唯一生きるエンディングがあれだもんな」
「だよね。僕、泣きそうだったもん、あれやってる時」
「あーーー解る、其れ!」
盛り上がるゲーム談議。と、突然携帯電話が着信を知らせた。
 『ヴヴヴヴヴ・・・!』
「誰? 出ろよ」
「うん。あ」
「裕介ーーー? 今、暇? 大丈夫?」
「うん、あ今、明が来てるよ」
「明が? あー、じゃ今日は良いや。裕介、明日は暇?」
「明日? うん、暇だよ。どうしたの?」
「会ったら言うよ。裕介の家、行って良いよね?」
「え、あ、うん構わないけど・・・」
「オッケ。じゃあ明日ね。バイバーーーイ」
「え?!」
『ップ』『ツー、ツー、ツー、ツー・・・』
・・・・・・弾丸トーク。彼女は少なからず強引に物事を進める癖が在ると思う。
 「何、明日アイツ来るの? スケのカノジョ」
電話が切れたのを見計らって、明が僕に話しかけた。
解ってて『スケのカノジョ』なんて軽く歌うように言うんだから、明も性質が悪いと思う。
「・・・止めてよ、其の言い方。うん、でもそうだよ、来るって」
「へぇ。じゃあ俺は来るの止すわ。
しっかし妬けちゃうわ。御前もアイツも俺のモノなのに、二人っきりで会うなんて♪」
今のは絶対、語尾にハートマークだ。
此のひとは、何処まで本気で喋っているのだろうかと、偶に真剣に考えてしまう。
いや、其れよりも。
「だーから、そういう言い方、止めろって」
最初は照れ隠し。言ってから、ああ、と、確信めいた感情。

 明は明の僕は僕の。そして彼女は、彼女の。
明確な線引きを、きっと僕はしたがっている。